税理士法は、弁護士法がカバーする一部の専門的領域(税務領域)について切り出して規定されています(したがって弁護士は当然に税理士業務を行えます。)。しかし、弁護士業務の大部分が有償独占であることに対し、税理士業務は無償独占とされており規制の程度が強化されています(税理士法基本通達2-1)。
税理士法の無償独占は、法令ではなく通達で規定されたものであり、国民を直接的に規制するものではありませんが、判例も通達を踏襲しているようです。(弁護士・税理士以外は、税務代理・税務申告に関して、無償であったとしても助言等をしてはならない、ということを意味する)
この無償独占については、所説ありますが
税理士は、弁護士とは異なり、申告納税制度の理念を実現すべく、公正中立な立場にて業務を行う(依頼者にもよらず、税務官公署にもよらず)ことが求められます。
税務当局としては、無償税務相談を認めてしまうと、業務を行う上で適切な知識・経験があるものの公正中立な立場にて業務を行わない者が、依頼者の意向に沿った税務相談(脱税等)に応じてしまう、といったことを懸念し、通達として明記したものと考えられます。
ただ立法論として、独占業務は限定的に認めるべきであって、法令に明記せず通達にとどめている、ものと推測します。(税法にはこのような規定の仕方が多く存在します。)
ただし、誤解が多い部分ですが、税理士法で独占業務とされている助言業務は税務代理・税務申告に関する税務相談です。無償での税務相談、主業務の付随業務での税務相談などは、現実として数多く行われており、これを一律に規制することは困難です。(保険外交員、ファイナンシャルプランナー、投資コンサルタント、経営コンサルタントなど、)。あくまで税理士法の趣旨に従い、「税務代理・税務申告に関する」といった部分を含む限定的解釈を超えた程度の甚だしい行為を取り締まることができるよう運用されているものと考えられます。
※ 税理士法の無償独占については、廃止すべきとの論調も多いところですが、法令で明記されておらず、通達(直接的には行政機関を拘束するのみ)を改廃する必要があるということとなります。)
(参照) 弁護士法第3条
弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
※第3条2項の規定は、昭和24年の弁護士法抜本改正に際し、「税務代理士」として挿入され、昭和26年に税理士法が立法される際に、「税理士」となっています。
※第3条2項に司法書士が規定されていませんが、法律事務として当然に司法書士業務を行うことができると解釈されています(東京高裁平成7.11.29)。
税理士・弁理士が明記され、司法書士・行政書士が明記されていないのは、単なる法律制定の際の経緯からくるものでしょうか。士業団体間の職域争いは、国民不在の不毛な議論であることが多く、いち早く明文規定を設けることが望ましいと考えます。
(参照)税理士法 第2条(税理士の業務)
第1項 税理士は、他人の求めに応じ、租税
(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法 (昭和二十五年法律第二百二十六号)第十条の三第二項 に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項 に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十号を除き、以下同じ。)
に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
1 税務代理 (略)
2 税務書類の作成 (略)
3 税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法 (昭和三十七年法律第六十六号)第二条第六号 イからヘまでに掲げる事項及び地方税に係るこれらに相当するものをいう。以下同じ。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)
※ 税理士業務が独占業務である点から、その範囲は限定的に解釈され、また印紙税など税理士の援助を特に要しないと認められる税目についても明確に業務対象から除外されています。
〇「業とする」
弁護士法と異なり、営利目的の有無ないし有償無償の別を問わない、とされています。(税理士法基本通達2-1)
判例においても同様に解されています(昭28.11.2 広島高裁、昭和35.7.18 東京地裁、昭和40.2.26 東京高裁など)
(参照)司法書士法第3条(業務)
※ 平成14年改正時に追加された条項も多く、弁護士法より新しいため、ずいぶん読みやすくなっています。
※ 司法書士法には有償無償についての記載がなく、弁護士法と異なり営利目的の有無も判然としません。
参考 『業』『営業』の解釈論
一般に「業として」は、反復継続を前提としており、その継続性を維持するには何等かの報酬を得ていることが大半です(付随業務が無償であったとしても、主業務が有償である場合は、当該付随業務も営利性があるという前提です。)。各種独占業務に関する規定において、弁護士法のような明文規定がないから無償独占だとする意見もありますが、元来、独占業務は限定的に解釈されるべき公益規定であり、各士業は無償独占である明確な根拠がないもの(単に報酬を得ての記載がない)まで、積極に無償独占であると主張すべきでないと考えます。独占業務に関する法令は徒に他者の正当な業務を妨害するために存在しているものではありません。
(参照)税理士法基本通達2-1(税理士業務)
2-1 税理士法(以下「法」という。)第2条に規定する「税理士業務」とは、同条第1項各号に掲げる事務(電子情報処理組織を使用して行う事務を含む。)を行うことを業とする場合の
当該事務をいうものとする。この場合において、「業とする」とは、当該事務を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しないものとし、国税又は地方税に関する行政事務に従事する者がその行政事務を遂行するために必要な限度において当該事務を行う場合には、これに該当しないものとする。
※ 通達において無償であるものをすべて含むとは明記はされていません。無償の業務は、程度の甚だしいものを捕捉できるような記載の仕方です。通達行政の特徴でしょうか。
税理士法の趣旨に従って著しく問題のある行為は有償・無償を問わず、取締り対象とするということであって、積極的に無償独占業務であると記載されていないこととなります。以降は、推測となりますが、無償独占という用語自体が、独占業務を守りたい立場の視点から作られ、その後、通説化してしまっているということかと考えます(この通説を拡大解釈し、他者の正当な業務を妨害するような行為も散見されます)。
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(F)納税者の代理
A 納税者を代理する専門家
能率的な租税制度は、税務当局に対して納税者を代理する資格のある専門家の存在を必要とする。このような代理は、個人納税者にその個々の事件において、税務行政上の誤謬に対し必要な保護を与えるものである。加えるに、この専門家は、行政制度について見識のある批判を加える能力があるから、このような制度は、行政事務全般にわたる牽制として役立つのである。その結果、行政能率を増進させ、決定を一層公正ならしめるために、絶えず必要な刺激が与えられることになる。着々と納税者の代理者の数が増し、その素質が向上するということは、日本における税務行政の成功にとっては、極めて重要なことである。
(シャウプ使節団第二次日本税制報告書附録書 所得税及び法人税の執行に関する問題、(F)納税者の代理より引用)
(シャウプ使節団日本税制報告書附録第四編E節 附帯問題第四款 納税者の代理より引用)
「税務官吏に対する職業的立場からする納税者の代理業務は、現在税務代理士によって取り扱われている。これらの代理士は大蔵省の認可を受け、その活動並びに手数料は同省によって監督される。税務代理士数は現在三千二百人である。一方少数の弁護士と、そしてこれよりも多くの会計士が税務代理士の認可を受けているが、この業務の大部分は以前に税務官吏であった者によって行なわれている。現在純所得の客観的補足が不十分で、これに伴い税務署と納税者との交渉が重要性を増してきた結果は、主として、納税者の代理としての税専門家というよりも、むしろ上手な取引者ができあがっている。ある場合においては、この「取引者」という語は、買収・収賄及びこれに類似するものを意味するえん曲な語句である。
もし、単にえこひいき又は寛大を得るために交渉するのではなくて、納税者の代理を立派につとめ、納税官吏をして法律に従って行動することを助ける積極的で見聞の広い職業群が存在すれば、適正な税務行政はより容易に生まれるであろう。また引き続いて、適正な税務行政を行なうためには、納税者が税務官吏に対抗するのに税務官吏と同じ程度の精通度をもってしようとすれば、かかる専門家の一団の援助を得ることが必要である。したがって、税務代理士階級の水準が相当に引き上げられることが必要である。かかる向上の責任は主に大蔵省の負うべきところである。税務代理士の資格試験については、租税法規並びに租税及び経理の手続と方法のより完全な知識をためすべきである。税務代理士の活動の監督は厳重に行なわなければならない。多分納税者を査察していると思われる国税庁における特別な査察官の一団は税務代理士の誠実を査察するために活用せらるべきである。税務代理士の業務に関する苦情は遅滞なくかつ十分に調査されなければならない。税務代理士は、税務官吏に面接する場合に、その身分を容易に明らかにする小型の公式証明書を交付さるべきである。税務官吏もまた業として納税者を代理するようになることは望ましいことである。法律の詳細且つ明確な規定の下における客観的課税は、訓練された叡知を必要とする。
これらの専門家団のサーヴィスが十分に利用できないとすれば、納税者は、税務官吏の避け得られない誤謬に対して、その地位を適当に保持することが、不可能となるであろう。現在では、納税者は、その希望により、友人又はその他の個人に代理してもらってもさしつかえない。税務税理士の認可を受けなければならないのは、人が代理業に従事する場合に限られる。特別な場合に、納税者を個人的立場において援助するというこの能力は、存続せらるべきである。そうでないと、特に税務行政の現状に鑑み、納税者による異議の申立は、多くの場合余りにも費用がかかることとなろう。しかし、結局税務行政が改善せられ、より専門化し、かつ、階級としての税務代理士の能力と堅実性が保証されるようになれば、納税者代理をその階級に限定することが、おそらく望ましいことになるであろう。少なくとも、このことは、納税者のためになされる訴願の取扱いに関して然りである。各地の国税局及び税務署に対し、納税者を代理することは、本質的には個人的な問題である。事件は、個人的起訴の上に立って議論検討さるべきである。税務代理士又はその他の代理人は、通常その特定の出頭を特定の事件に限定すべきである。訴願及び異議の申立を、一括して取り扱うことは適当な手続ではない。租税事件は、一括して論議決定せられるべきものではない。納税者の階層に対するその影響の面から、全般的な行政的手続を検討することが妥当である。しかし、租税債務及び租税に関する論争を一括して検討することは、納税官吏によって許可さるべきものでもなく、また納税者の代理人の参加すべきものでもない。」
(第二次シャウプ勧告<昭和25年9月21日>―抜粋)
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非弁行為と士業独占について
ある業務より報酬を得ている場合に、当該業務が事件性を帯びてきたら(紛争の香りがしてきたら)に意図せず非弁行為に該当してしまうことがありますので特に隣接士業の方(司法書士、行政書士、社会保険労務士、公認会計士、税理士、中小企業診断士など)は留意が必要です。
税理士は、税理士法 第二条第一項に規定する業務に付随して行う場合には社会保険労務士法第2条に掲げる事務を業として行うことが可能とされています(社会保険労務士法施行令第二条)。しかし、全国社会保険労務士会連合会及び日本税理士会連合会の合意により、この付随業務は、法令解釈として「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内に限ると狭められることとなりました。これにより税理士は租税債務の確定に付随しない限り労務官公署に対する書類の作成や提出代行をできないということとなります
(執筆 2020/8/18)

